データ分析のためのSQL入門:データベースから情報を引き出す基本
データ分析を始めるにあたり、様々な情報源や技術が存在するため、何から手を付ければ良いか迷うことがあるかもしれません。特に、分析の対象となるデータがどこに、どのような形で蓄積されているのかを知り、それを取り出すスキルは、データ分析の最初の重要なステップとなります。多くの場合、企業の持つデータはデータベースに格納されており、このデータベースから必要な情報を効率良く取り出すために使用されるのがSQLです。
データ分析とSQLの関連性
データ分析は、様々な場所に存在するデータを集め、整理し、加工し、傾向やパターンを発見するプロセスです。このプロセスの出発点となるのは「データへのアクセス」です。ExcelやCSVファイルとして手元にあるデータだけを扱う分析もありますが、より網羅的で最新の情報を得るためには、データベースに直接アクセスする必要が生じます。
データベースは、大量のデータを構造的に管理するためのシステムです。そして、そのデータベースと対話するために最も広く使われている言語がSQL(Structured Query Language:構造化照会言語)です。SQLを使うことで、データベースに「このデータを見せてほしい」「この条件に合うデータを抽出したい」「複数のデータセットを組み合わせて分析したい」といった指示を出すことができます。
データ分析においてSQLスキルが重要である理由は以下の通りです。
- データ抽出の効率化: 大量のデータから必要な情報だけを素早く取り出せます。
- データ加工の前処理: 抽出と同時に、データのフィルタリング、集計、結合といった基本的な前処理を行えます。
- 最新データの利用: データベースに蓄積された常に最新のデータにアクセスできます。
- 分析の再現性: 実行したクエリを記録しておくことで、同じ条件でいつでもデータを再現できます。
プログラミング言語での分析に進む前に、まずはデータベースから分析対象のデータを適切に取得するスキルを身につけることが、実践的なデータ分析能力の基盤となります。
SQLの基本:データを取り出すための構文
SQLは比較的平易な構文を持つ言語ですが、初めて触れる際にはいくつかの基本的なキーワードと構造を理解する必要があります。データ分析で最も頻繁に使用するのは、データベースからデータを「選択(取得)」するためのSELECT
文です。
SELECT
文の基本的な構文は以下のようになります。
SELECT 列名1, 列名2, ...
FROM テーブル名
WHERE 条件式
GROUP BY 集計に使用する列
ORDER BY 並べ替えに使用する列 ASC/DESC
LIMIT 取得件数;
各キーワードについて説明します。
SELECT
: 取得したい列を指定します。すべての列を取得する場合は*
を使用します。FROM
: データを取得するテーブル名を指定します。テーブルとは、データが格納されている表のようなものです。WHERE
: データをフィルタリングするための条件を指定します。この条件を満たす行だけが取得されます。GROUP BY
: 特定の列の値に基づいて行をグループ化し、集計関数(合計SUM
、平均AVG
、個数COUNT
など)と組み合わせて使用します。ORDER BY
: 取得したデータを特定の列の値に基づいて並べ替えます。昇順はASC
、降順はDESC
を指定します(デフォルトは昇順)。LIMIT
: 取得する行の最大件数を指定します。
簡単な例として、以下のような架空のsales
テーブルがあると仮定します。
| date | product_id | quantity | price | | :--------- | :---------- | :------- | :---- | | 2023-01-01 | 101 | 50 | 100 | | 2023-01-01 | 102 | 30 | 150 | | 2023-01-02 | 101 | 70 | 100 | | 2023-01-02 | 103 | 20 | 500 | | 2023-01-03 | 102 | 40 | 150 |
このテーブルからデータを取り出すクエリの例を示します。
例1:テーブルの全データを取得する
SELECT *
FROM sales;
結果はテーブルの全ての行と列になります。
例2:特定の日付(2023-01-02)のデータのみを取得する
SELECT *
FROM sales
WHERE date = '2023-01-02';
WHERE
句で条件を指定しています。
例3:商品ID(product_id)ごとの販売数量(quantity)の合計を計算する
SELECT product_id, SUM(quantity) AS total_quantity
FROM sales
GROUP BY product_id;
GROUP BY
で商品IDごとにグループ化し、SUM
関数で数量を合計しています。AS total_quantity
は集計結果の列に別名をつけています。
例4:販売数量が多い順にデータを上位3件取得する
SELECT *
FROM sales
ORDER BY quantity DESC
LIMIT 3;
ORDER BY quantity DESC
で販売数量の降順に並べ替え、LIMIT 3
で最初の3件を取得しています。
これらの基本的な構文を組み合わせることで、データの抽出、フィルタリング、集計、並べ替えといった様々な操作が可能になります。
SQLを実際に試すためのステップ
SQLを学習する最も効果的な方法は、実際に手を動かしてクエリを書いてみることです。幸いなことに、SQLを試せる環境はいくつかあります。
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オンラインSQL実行環境の利用: DB FiddleやSQL Fiddleなどのウェブサイトでは、ブラウザ上でSQLクエリを書いて実行し、結果を確認できます。様々な種類のデータベースシステム(MySQL, PostgreSQL, SQLiteなど)を選択できる場合が多く、環境構築の手間なくすぐに試せるため、学習の最初のステップとして最適です。これらのサイトにはサンプルデータが用意されていることもあります。
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軽量データベースのインストール: SQLiteのようなファイルベースの軽量データベースは、インストールが容易で手軽にローカル環境でデータベースを構築できます。GUIツール(DB Browser for SQLiteなど)も利用すれば、視覚的にテーブル構造を確認しながら学習を進められます。
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クラウドデータベースの無料枠利用: Amazon RDS (MySQL, PostgreSQLなど)、Google Cloud (BigQuery, Cloud SQL)、Microsoft Azure (Azure SQL Database) など、クラウドサービスのデータベースには無料利用枠が提供されていることがあります。これらを利用して、より本格的なデータベース環境でSQLを試すことも可能です。ただし、クラウドサービスの利用にはアカウント作成や設定が必要となるため、最初はオンライン実行環境から始めるのがおすすめです。
まずは基本的なSELECT
, FROM
, WHERE
句を使った簡単なクエリから始めて、徐々にGROUP BY
, ORDER BY
, LIMIT
などを組み合わせていくと良いでしょう。様々なサンプルデータに対してクエリを書いてみることで、SQLの理解が深まります。
まとめと次のステップ
データ分析において、データベースから必要なデータを正確かつ効率的に取り出すスキルは非常に重要です。本記事では、そのために必須となるSQLの基本的な役割と、SELECT
文を中心とした主要な構文を紹介しました。
SQLは奥が深い言語ですが、データ分析の目的であれば、まずは基本的なデータ抽出、フィルタリング、集計、並べ替えができるようになることを目指しましょう。紹介したオンラインツールなどを活用して、実際に手を動かしながら学習を進めることを推奨します。
SQLの基本を習得した後は、複数のテーブルを結合するJOIN
句や、より複雑な条件指定を行うサブクエリ、データの挿入・更新・削除を行うINSERT
, UPDATE
, DELETE
文など、さらに高度な構文を学ぶことで、データ活用の幅が大きく広がります。また、SQLで整形したデータをPythonやRなどのプログラミング言語に取り込んで分析を進めることで、より複雑な分析やモデリングが可能になります。
データ分析スキル習得に向けた道のりは様々ですが、SQLは多くのデータソースへの扉を開く鍵となります。ぜひこの最初のステップを踏み出し、データ活用の可能性を広げていってください。