データ分析の基礎となる統計入門:数字の裏を読むための考え方
データ分析を始めたいと考えている方にとって、統計という言葉は少し難しく感じられるかもしれません。しかし、データ分析において統計的な考え方は非常に重要であり、数字だけを眺めるのではなく、その数字が持つ意味や背景を理解するために不可欠です。この記事では、データ分析の基礎となる統計の考え方について、専門知識がない方にも分かりやすく解説します。
なぜデータ分析に統計が必要なのか
データ分析の目的は、集まったデータから有用な情報やパターンを見つけ出し、意思決定や問題解決に活かすことです。データは単なる数字の羅列ではなく、何らかの現象や事実を記録したものです。
例えば、ある商品の売上データがあったとします。日々の売上額を見るだけでは、全体の傾向や特徴を掴むことは難しいでしょう。ここで統計の考え方を取り入れると、売上データの「平均」を出して一般的な売れ行きを知ったり、「ばらつき」を見て売上が安定しているか変動が大きいかを判断したりできます。さらに、特定期間の売上を比較して変化を見たり、他のデータ(天気、プロモーションなど)と組み合わせて関係性を調べたりすることも可能です。
このように、統計はデータの全体像を把握し、データに隠された意味やパターンを引き出すための強力なツールとなります。統計的な考え方を持つことで、データに基づいたより正確で客観的な判断を下すことができるようになります。
これだけは知っておきたい統計の基本概念
データ分析を始めるにあたり、高度な統計理論を全て理解する必要はありません。まずは、データの特徴を掴むための基本的な概念から学び始めるのが良いでしょう。ここでは、特に重要ないくつかの基本概念を紹介します。
- 平均(Mean) データの合計をデータの個数で割った値です。データの中心的な傾向を示す最も一般的な指標です。例えば、従業員の平均年齢や、顧客の平均購入額などを知る際に使用します。
- 中央値(Median) データを小さい順(または大きい順)に並べたときに真ん中に来る値です。データの個数が偶数の場合は、真ん中の2つの値の平均となります。平均値は極端に大きい値や小さい値(外れ値)の影響を受けやすいですが、中央値は外れ値の影響を受けにくいため、より実態に近い中心を示すことがあります。
- 最頻値(Mode) データの中で最も頻繁に出現する値です。例えば、アンケートの選択肢で最も多く選ばれた項目や、商品のサイズで一番売れているサイズなどを知る際に役立ちます。
- 範囲(Range) データの最大値から最小値を引いた値です。データのばらつきの度合いを示す最も単純な指標です。
- 分散(Variance)と標準偏差(Standard Deviation) これらはデータのばらつきの度合いを示す指標です。分散は各データと平均値との差を二乗した値の平均です。標準偏差は分散の正の平方根で、データが平均値の周りにどれだけ散らばっているかを、元のデータの単位で分かりやすく示します。標準偏差が大きいほどデータは広く散らばっており、小さいほどデータは平均値の近くに集まっていると言えます。
- 分布(Distribution) データがどのような値にどれくらいの頻度で出現するか、そのばらつきのパターンを示します。データの分布を視覚的に確認するために、ヒストグラムなどのグラフがよく用いられます。データの形(左右対称か、どちらかに偏っているかなど)を理解することは、その後の分析において重要になります。
- 相関(Correlation) 2つのデータ系列が互いにどのように関連しているかを示します。例えば、広告費と売上、気温とアイスクリームの売上などが正の相関を持つか、あるいは負の相関を持つかなどを調べることができます。相関関係があるからといって、必ずしも因果関係があるわけではない点に注意が必要です。
数字の裏を読むための統計的思考
これらの基本的な統計の概念を理解するだけでなく、「統計的思考」を身につけることがデータ分析においては重要です。統計的思考とは、単に数字を計算するだけでなく、データがどのように収集され、どのような背景があり、その数字が何を示唆しているのかを批判的に考える姿勢です。
例えば、ある施策後に売上が「平均10%増加した」というデータを見たときに、単に「売上が増えた」と喜ぶだけでなく、以下のような点を考えてみることが統計的思考の一歩です。
- そのデータは全体のごく一部ではないか。
- 比較対象となった期間のデータは適切か(例えば、繁忙期と閑散期を比較していないか)。
- 他の要因(競合の動向、季節要因など)の影響はないか。
- 増加率の「ばらつき」はどの程度か(一部の店舗だけで大きく増えたのか、全体的に少しずつ増えたのか)。
このように、数字の背後にある様々な要因やデータの性質を考慮することで、より深い洞察を得たり、誤った結論を避けたりすることができます。
学習を始めるためのステップ
統計の基礎を学ぶためには、様々な方法があります。
- 書籍を読む: データ分析や統計学の入門書は数多く出版されています。初心者向けにイラストを多く使ったり、専門用語を丁寧に解説したりしている書籍から始めてみるのが良いでしょう。
- オンラインコースを受講する: Coursera、Udemy、Udacityなどのオンライン学習プラットフォームには、統計の基礎を学べるコースが多数あります。動画や演習問題を通じて体系的に学ぶことができます。
- 無料の学習リソースを利用する: Khan Academyや統計関連の公開講座など、インターネット上には無料で統計の基礎を学べるサイトや動画も豊富に存在します。
- 実践を通じて学ぶ: 実際に簡単なデータセットを使って、平均値や中央値を計算したり、グラフを作成したりしてみましょう。ExcelやGoogle Sheetsなどの使い慣れたツールでも、基本的な統計計算は可能です。
統計の学習は、最初は難しいと感じるかもしれませんが、少しずつ概念を理解し、実際のデータに触れてみることで、次第に面白さを感じられるようになるはずです。
まとめ
データ分析において、統計的な知識と統計的思考はデータの真の意味を理解し、根拠に基づいた意思決定を行うための土台となります。この記事で紹介した基本的な概念は、データ分析の第一歩として非常に有用です。
まずは、ここで触れた平均、中央値、ばらつきなどの概念を改めて確認し、身の回りの簡単なデータ(例えば、自分の毎月の支出など)でこれらの値を計算してみることから始めてみてはいかがでしょうか。統計への苦手意識を克服し、数字の裏に隠されたストーリーを読み解く力を身につけるための一歩を踏み出しましょう。